心機一子に
「そうだね。小さな子供もいつか独り立ちする。そろそろ次のステップを考える時期かもしれないね。この一年間、朔良君はとてもよく頑張って来たと僕は思うよ。リハビリセンターから転院してきたときには、もう朔良君は自分の足で歩くのを諦めて、一生車椅乗る気なのかと危惧した位だ。彩君が傍に居ないときは、まるで癇癪持ちの王子様のようだったしね。」
医師は朔良に立ち上がるように勧めた。
「ほら……今は、こうして自分の足で真っ直ぐ立てる。足首の細さに差はあるけど、歪みも大した事は無い。このあたりで朔良君も転して、新しいことを始めてもいいんじゃないか?君が将来何になりたいか僕は聞いた事は無いけど、可能Unique Beauty 好唔好性はたくさんある。いつまでも事故を引きずっていちゃいけないよ。君も彩君もまだ若いんだ。朔良君には夢はないの?」
琉生は庭に咲いていた蝋梅の黄色の花を一枝、グラスに挿した。
春を告げる小さな花弁が、曇りガラスでこしらえた造花のようだ。
微かに花の香がリビングに漂った。
この頃、すでに食事を摂れなくなっていた美和は、胃ろうの手術をしていた。
椅子に座っている以外は、横になっている時間が長くなっていて、誰の目にも、ひどく衰弱していると分かる。
今度何かあったら、責任が持てません。すぐに、入院していただきますと、医師に引導を渡されていたのを引き延ばしていた。
「気分はどう?少しは眠れた?」
「ごめんね……琉生。」
「ん?なんで謝るの?」
「お母さんね、本当は琉生と二人で、この家を出て行くつもりでいたの。……病気になったから、できなくなっちゃった。隼人君にも、出て行くって言ったのにね。」
「それって、大分前に尊兄ちゃんと隼人兄ちゃんが、喧嘩した日の事……?あれなら、もういいんだよ。お母さんが病気になってから、お兄ちゃん達は気を使ってくれるしすごく優しいんだ。最初この家に来た時みたいに、ぼく達すっかり仲良しなんだよ。」
「そうなの?もう今は、尊君と隼人君も喧嘩していないのね。良かった。」
「隼人兄ちゃんが、ごめんねって言ってた。良くわからないけど、お母さんとぼくのことを誤解してたって、いっぱい謝ってた。倒れたのも自分のせいかもしれないって、すごく落ち込んでたんだよ。だから何も心配しないで、お母さんは病気を減脂治して。隼人兄ちゃんも、早く元気になればいいなって言ってた。」
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